社会保険労務士の倉雅彦です。企業のメンタルヘルス対策は、今や「従業員の健康を守るため」だけではなく、「組織が持続的に発展し続けるため」に欠かせない取り組みとなっています。その中で最近、特に注目度が高まっているのが ストレスチェックWell診断®の80項目版 です。
従来の57項目版でもストレス状態を把握することはできますが、時代の変化や働き方の多様化に対応するには、より深い視点が求められています。今回は、その追加された23項目が“なぜ必要なのか”、そして“どう活かすのか”を、人事担当者に知ってほしい点を分かりやすくお伝えします。
57項目版は「現在の状態の把握」に優れている
ストレスチェックの基本となる57項目版は、厚生労働省が定めた以下の3領域で構成されています。
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仕事のストレス要因(仕事量、期限、人間関係など)
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心身のストレス反応(疲労、不安、集中力低下など)
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周囲のサポート状況(上司・同僚・家族の支援など)
これらは、従業員が今どのくらい負荷を感じているかを把握するには十分な内容です。しかし、「なぜ、そのストレスが起きているのか」「どんな環境に問題が潜んでいるのか」までは深掘りすることができません。
追加23項目は“組織の深層”を見える化する
80項目版では、次の観点が新たに追加されています。
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職場環境の質:公平性、評価制度の納得感、心理的安全性
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仕事の意義・自己効力感:成果の実感、成長の手応え
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組織文化・風土:ハラスメント、意見の言いやすさ、上層部との距離感
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生活習慣・健康行動:睡眠の質、運動習慣、ワークライフバランス
これらは、従業員の「働きやすさ」や「心理的安全性」、さらに「自己成長感」までを測定できる内容です。
つまり、57項目版では“現在地”が分かり、80項目版では“原因”や“未来のリスク”まで分かるイメージです。
なぜ今、追加項目が必要なのか?
追加23項目が重要視される理由は、大きく3つあります。
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働く人の多様化に対応するため
外国籍・副業・テレワークなど働き方が広がり、一律の尺度では捉えられない課題が増えています。 -
組織課題の“特定”がしやすくなるため
例)「ストレスが高い」と出た従業員が多い→評価制度の不満が原因なのか、心理的安全性なのか、成長実感の欠如なのか原因が分からなければ、対策も打てません。 -
予防的アプローチを強化できるため
睡眠不足や生活習慣の乱れは、メンタル不調の前兆です。
早期に兆しを把握し手を打つことで、休職や退職など大きな損失を防ぎやすくなります。
ストレスチェックを“やりっぱなし”にしない
制度が義務化されるほど普及した一方で、残念ながら多くの企業で 「実施すること」が目的化 しています。
大切なのは結果を「行動」につなげること。そのためにおすすめしているのが セルフケアカード研修 です。
この研修では、
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自分のストレス対処法(コーピング)をカードで“見える化”
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「感情で整える方法に偏っている」
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「相談できる人が少ない」
など、本人が“自分の言葉で”気づくことができます。
座学よりもはるかに理解が深まり、行動に結びつけやすいのが大きな特徴です。
一次予防こそ、企業の未来を守る最大の投資
メンタル不調は、ある日突然起こるものではなく、小さなサインが積み重なって表面化します。
だからこそ、ストレスチェックとセルフケア研修の組み合わせが有効なのです。
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不調が「起きてから」対応するのではなく
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不調が「起きる前」に気づく
これが一次予防の考え方で、企業経営にとっても大きなリスク回避につながります。
まとめ
ストレスチェックWell診断®の80項目版は、従業員のストレス状態だけでなく、組織の課題や働く環境の質まで立体的に把握できるツールです。
ここにセルフケアカード研修を組み合わせることで、「気づき」から「行動」へとつなげる流れが生まれ、メンタル不調の予防効果が高まります。
ストレスチェックを「実施して終わり」にしない企業こそ、これからの時代に選ばれる企業です。
労務担当者の皆さま、ぜひ今回の内容を貴社のメンタルヘルス施策の強化にお役立てください。































